藤子不二雄AファンはここにいるBook2A マンガ論序説編感想

 
 この本は藤子不二雄ファンはここにいる管理人のkoikesanこと稲垣高広さんが書かれたものである。
 論序説編というタイトルがついているので、続編の企画でもあるの?と思う人もいるかもしれないが、そうではない。この本の中の序文で次のように説明されている。

 

本書は「Aマンガ論序説編」と名乗っている。「Aマンガ論」の下にあえて「序説」と付けたのは、本書の次に「本論編」のような企画が用意されているからではない。初心や基本を忘れない、という私の知的態度の表明のつもりである。たとえマニアックな世界や専門的な領域を扱うにしても、初心や基本をおろそかにしない、という意志を、「序説」という語で表してみたのだ。
稲垣高広藤子不二雄AファンはここにいるBook2 Aマンガ論序説編』(2009年12月15日)P16 11行目〜14行目

 ・・・というわけだ。この本は、「論序説編」銘打ってるだけあって、未読の読者を置いてきぼりにしない丁寧な気配りがしてある。作品のひとつひとつに丁寧な説明がついているのだが、その説明がまた絶妙で、その作品自体の読む気をなくしてしまうほどのネタバレがしてあるわけではなく、作品論を読むのにちょうどよいくらいの説明なのだ。なので、未読作品への興味がより一層深くなっていく。
 相手が読んだことのない作品について語るというのは非常に難しい作業である。しかし、この本はそれがしっかりとなされており、さすがは稲垣さんだなとただただひたすら感心した(笑)

 また、時折A先生が講演会や雑誌のインタビューなどで語られた文章が挿入されるのだが、その文章がファンにとっては目からうろこが落ちるようなものばかりだ。稲垣さんは相当の量のインタビューを所蔵しているのだなというのがよくわかる(笑)
 中には、おそらくA先生自身も言ったかどうか忘れてしまったようなものも含まれているのかもしれない(笑)
 その中でも特に私の興味を引いたものは、「少年時代」と小説「蠅の王」についての文章だ。蠅の王を私は読んだことがないのだが、南太平洋の孤島に、乗っていた飛行機が不時着してしまった少年たちのサバイバル生活を描いた小説なのだそうだ。確かに、少年時代の劇中での子供たちはサバイバルのような状態だなと感じた。

 また、第四章のあすなろの精神の中で、小説「魔法の杖」をまだ子供のころに読んだ経験が、日常の世界に異分子が入り込むという藤子漫画の王道設定の基となっているという文も興味深かった。

 もちろん、稲垣さん自身によるディープなA漫画論も読みごたえがあった。
 「赤紙きたる」がカフカ的要素を持っている、という箇所や、藤子漫画の王道パターンはわが名はXくんから始まった、というところなど、非常に感銘を受けた。
 
 やはりさすが稲垣さんの著書だけあって、期待を裏切らない内容だった。購入を検討されている方は是非購入してみてはいかがだろうか。


 
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